「発酵デザイナー」という超ニッチな肩書で活動する著者が語る発酵の本。
小難しいところを省き、堅苦しくないゆるい口調で、発酵と文化について紹介しているので、発酵素人?でも楽しく読める。
麹と糀の違い
字の通り、麦に麹菌をつけるか米に麹菌をつけるかの違い。
糀は日本で生まれた和製漢字。糀を作ると米に花が咲いたように見えることからできた。
麹は中国から渡ってきた漢字なわけだけど、これは中国では麹を作るのに主に麦を使うから。
さらに日本の糀との違いとして、中国の麹は屋台でむき出しで売っていることもあるらしい。日本ではちょっと考えられないのだが、ここにも菌の違いがある。中国の麹菌(クモノスカビ)は大量の酸を出しているため、雑菌に強く腐りにくい。
その特徴がよく現れているのが紹興酒。出来立ての紹興酒は酸っぱくて苦い。長期熟成させることで酸味と苦みがまろやかになってコクが増すのだそうだ。
逆に日本の糀はクモノスカビのような酸のバリアを持たず雑菌に弱い。味噌に10%程度の塩を足すのは、酸に代わって塩がバリアの役割を果たすため。また日本酒が長期熟成されることがないのも、紹興酒と違って酸味などのクセがないから。
普段何気なく使っていた塩麹。あれは米が原料なんで塩糀と表記した方がより厳密なんだな。ちょっと勉強になった。
若手の醸造家たちから感じる未来
6章では4人の若手醸造家の人達の仕事ぶりを紹介。
公式サイト↓商品情報とか見てみた
発酵の過程で夜も目が離せない。長期熟成の間は売上が0。オートメーション化せずに全工程手作業。小規模メーカーゆえに大変なことは種々あるのだけど、誰も彼も仕事が楽しそうで羨ましくなった。こういうの天職っていうんだろうな。お金のため社会の歯車になって働く人が多いなか、仕事が趣味って言えるのは素晴らしい。
彼らに共通するのは、自分のプロダクトの価値を信じていて、安易な安売りはしないこと。
安売りが当たり前になると、消費者はその程度のものだと製品を「消費」するだけになり、作り手に敬意を払わなくなる。作り手側も安くしか売れないからと、当たり障りのない無個性な製品ばかりを作るようになってしまう。こうなってしまうと、昔からあった個性的な文化が失われ、均一な製品ばかりを作る会社で市場が占められる。変化のないつまらない会社には新進気鋭の若者は寄り付かない。
このあたりの問題は、戦後の醤油が大量生産されるようになった時代にすでに起こっていて、中小企業が組合を作って共同生産するようになった結果、自家醸造の個性的な醤油がなくっただけでなく大企業との価格競争にも負けた。
ミツル醤油もそんな中小醤油メーカーの一つで、祖父の代で自家醸造を止めていたのだが、他の自家醸造メーカーで修行して復活させたのが城慶典さん。現在の醤油メーカーで自家醸造をしているのは一割にも満たない。そんな中で自家醸造を復活させるのは、すんごいこと…らしい。
城さんの名前でググるといくつものインタビュー記事が出てくる。
何気なくいつもキッコーマンの醤油を買っていたが、知らないところで若い醸造家の人が丹精こめてこんな「いいもの」を作っていたとは…。
大変そうだけど本当に羨ましい。こういう仕事をできるならしたいよね。
参考文献の紹介コーナー
毎章最後に種本の詳しい紹介がある。「この本とこの本に書いてることをミックスして書いたんですよ!」と潔く種明かしされていて面白い。
参考文献のリストをがーって並べてあってもどれから読めばいいのか分からんので、こういう詳しい紹介は有り難い。気になった本は読みたい本リストに突っ込んでおいた。