6・4 言語は絵を下手にする
大学生が描いた馬と自閉症児が描いた馬
- 著者の講義を受けた普通の大学生に馬を描いてもらった
- ほとんどの学生が側面から見た平面的な馬を描いた
- 結果、ほとんどが馬と言われないと分からない子供が描いた絵のようになった
それを
- 重度の自閉症の子供(6歳)の馬の絵と比較すると……
- 馬を側面から見た図ではなく正面斜め前から見た立体的かつ写実的な馬
- 学生の絵よりも巧みで馬と分かりやすい
子供は自閉症のため誰ともコミュニケーションがとれず絵の指導を受けたことがない。それにも関わらず、大学生よりも立体的写実的な馬を描けた。
言語能力を得ると下手になる
ところが、自閉症児が訓練を重ねてコミュニケーションができるようになると、それに反比例して絵の能力が失われていった。
この子が描いていた絵はクロマニヨン人が描いた壁画に一部似ているとのこと。
↓おそらくラスコーの壁画のこと?
ラスコーの壁画は2万年前に書かれたもの。この時代なら現代人に比べて、彼らの言語はそれほど複雑ではなかっただろうと推測できる。
イギリスの心理学者ハンフリーは彼らの絵の能力は低い言語能力によるものだ、と考えた。
言語を身につけると下手になるのはなぜか
言語能力が未発達のうちは、物事を覚えるのに写真記憶を行う。しかし、言語能力が発達してくると、ほとんどの子供が写真記憶をしなくなる。
写真記憶、映像記憶、直観像記憶:見たものを映像で記憶すること。
下の動画は言語能力を持たないチンパンジーの短期記憶を試すテスト。
画面に写った数字を短時間で覚えて、その数字が隠されたら小さい順にタッチするというもの。動画を見れば分かるがチンパンジーは迷いなく素早くタッチしている。
人間は言語による記憶・抽象化能力を発達させ、自然界を生き残ってきた。だが、代わりにこのような写真記憶の能力が衰えていったのではないかと言われている。
ただし、成人の中でも写真記憶を持つ人はいて、本のページを一瞬で記憶し、速読できてしまう人もいる。
高い言語能力を持つ大人は上手い絵が描けないのか?
著者は写真記憶の能力は失われたのではなく「表に出てくる」機会が少なくなっただけと言う。言語能力を司る脳の部位の活動を弱めると、上手く描けるようになるという研究もある。
ほとんどの人の言語野は左脳にある。この本はその左脳と右脳の関係性を解説し、右脳を優勢にして描く方法を提示している(だいぶ前に読んだので記憶がうろ覚えだが)
例えば、上下反転した状態で模写をする。すると模写対象を通常通りに認識できない=言語化しにくくなるなるため、左脳の働きを弱めることができる。
高い言語能力を持つと絵が下手になるなら、世の中にはイラスト講師もイラスト系Youtuberも存在しない。絵が上手い人たちというのは、絵を描く時に写真記憶の能力を「表に出させる」ことができる人……なんだろう。たぶん。